当保育所の玄関前の広いポーチをキャンバスに、2歳児11名はペンキ用の刷毛を絵筆にして腕を振るいました。ポスターカラーの青、赤、黄色をそれぞれの容器に先生が溶かしてみせます。子どもたちは興味深く、その三色をはっきりと認識します。「あっ、○○ちゃんの洋服の色といっしょだね」「あの赤い花と同じ」(折しも道をへだてて、彼岸花が咲いていました)などと、確認します。色の三原色である青、赤、黄色をしっかり知ってほしいからです。
そして、先生がそれぞれの色を使って線や丸を描いてみせると、子どもたちは自由に散らばって、「絵描きさんごっこ」をします。絵描きさんになったつもりの、「ごっこ遊び」の域を出ないので、そう呼んでいます。
子どもたちは興にのり、黙々と仕事に熱中。お互いの会話なども見られながら。
そんな中で、瞭征くん(2歳6ヶ月)は誰からも邪魔されずに一人で、あたり一面を黄色に染めて楽しんでいました。そこへ遼太くん(3歳1ヶ月)が近寄り、「みどりになった。ねぇ、ねぇ、みどりはどこからもってきたと(の)?」と瞭征くんの背に手をあてがい、不思議そうに聞いていました。みると、黄色のなかに一ヶ所だけ緑があります。きっと誰かが青い色をサッとひと塗りしたのでしょう。
青、赤、黄色をインプットしているのに、「なぜ緑が、瞭征くんのところに!そして瞭征くんはどこから緑を持ってきた?」と、新鮮な驚きに、傍目にも異なった意味で新鮮な驚きです。
「みどりになった」、「みどりはどこからもってきた?」という、この二つのフレーズは、どのように解釈していいか、迷います。この年齢では一つの事象を、自分なりに?抽出して言葉にするからです。即ち、表現力の未熟さからくる新鮮さ、というのでしょうか。
分析はともかくとして、一方、離れて、「ぶどう!ぶどう!」と言って喜んでいる声がします。赤と青が混ざって紫色になって、葡萄を連想しているようです。
1時間近く遊んでいたでしょうか。飽きた子は園庭の方に移動します。
事情があって、遅れて参加した優里ちゃん(3歳2ヶ月)は一人になって、遊んでおり、三個の容器の中を覗いて「茶色になっている」と言いました。そうです。三色混ざって、茶色になっていました。
私の受けた美術教育では、三原色を合わせると灰色になると教わりました。子どもたちが絵描きをしたあとが毎年のことながら、茶色に染まっているのをみて、灰色になる筈なのにどうして茶色に、と疑義を抱いておりました。
そこでネットで調べたら、理論上は三色すべてを均等に混ぜると灰色になるが、実際はごく暗い茶色になるとあり、専門的なことは別として記憶違いではなかった、と安心もしました。
蛇足ながら、色の三原色を詳しくは、
・シアン(澄んだ青緑色、濃い水色、碧)
・ マゼンタ(ピンクに近い紫、赤紫、紅)
・ イエロー(黄色)、といわれるようです。
猪俣美智子
絵描きさんごっこ 写真:日高由美子