宮島の厳島神社へ通じる参道には野生の鹿たちが多くいる。人懐っこく近寄ってくる。何となく痩せて毛色も良くない。入り口には「鹿にエサをあげないでください。鹿を山へ戻すプロジェクトをしています」という看板が設置されてある。行き交う人々に鼻をすり寄せてくる。エサを欲しがっているに違いない!やるわけにはいけない。持ち合わせもない。
と、道路脇でベビーカーをとめていた家族に近づき、そばで男の子が持っていた紙袋を、鹿が引き裂き始めると、必死に取られまいとする男の子との格
闘が始まった。鹿は袋の襠に当たるところをサッと食いちぎり、もぐもぐと鼻を動かしながら綺麗に食べた。
紙ならまだしも、飢えてごみ捨て場のビニール袋を食べて死んでいく鹿もいるとか…。観光客を鹿で呼び込み、今では増えすぎた鹿!人は鹿たちを山へ戻すことができるだろうか。
参道のほとりにお弁当を広げている家族の脇に、その一員であるかのように四つ脚を折って座っている一匹の鹿は、食べ物をもらっていた。
穏やかに晴れた空、そして海中に建っている大鳥居が、折からの干潮で脚のたもとに、多くの人が群れていた。
2018.4.30 写真/宮崎康子 文/猪俣美智子