ここ4、5年、スーパーの果物コーナーに紅玉という名のりんごにお目見えする。最初、「わぁー、会いたかったわ。お久しぶりね」と、感動の喜びを心のなかで、叫んだものだ。今年もさっそく恩恵にあずかっている。
わたしのリンゴ好きは幼い頃の記憶にある。母の押す乳母車にのって、市場へ買い物。冬の暖かい日差しにうとうとしながらも、賑やかに立ち並んでいる店が珍しく、そのなかに、ひと際まっ赤に目立つりんご。「チレイネ(きれいね)、チレイネ」と幾度も繰りかえして言う私に、母は一つだけ買ってくれた。家に帰っても放さずに大事そうにかかえていた。その姿の写真も残っている。
紅玉は米国ニューヨーク州の原産。日本には明治初年、開拓使によって導入され、長い間一斉を風靡し、大量に出回っていたが、つぎつぎに品種改良され、手に入らない時代が続き、今では、つがる、ジョナゴールド、王林、ふじ、デリシャス、国光等が、店頭に並んでいる。
ちょうど紅玉の出回っているときを、成長してきた私には、リンゴのまっ赤な照りといい、酸味の利いた甘さと香りが、ソウルフードとなっている。
りんごの季節となり、保育所の子どもたちが紅玉ではないが、おやつに食べているのを見ながら、懐かしく憶う。
店頭に並ぶのには、まだまだその数は少ない。しかし紅玉の美味しさが見なおされているともいわれる。
2013(平成25)年12月
猪俣美智子