社会福祉法人 アイリス康友会 曽師保育所 令和4年3月1日完成 建築家 歌一洋 元近畿大学教授

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2015年07月13日(月)12時11分

ツバメの巣

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ツバメの巣                                  撮影 猪俣美智子

 よく買い物に行くショッピングストアーの出入り口に、ある日、女の子がじっと立っている。そこへやってきた私に、「すずめ」と指をさしたのは軒下に何とツバメの巣があり、黄色い嘴を大きく開けて4羽並んでいた。「つばめだね」と、私と顔を見合わせるなり、すたすたと店の中にいる母親の所へ走って行った。誰かに知らせたかったのだろう。「すずめ」と指差したけれど、鳥類分類ではスズメ目、ツバメ科であるから、さして変わりはないだろう。スズメもツバメも身近にいる鳥で、「えっ、すずめ?つばめ?」と、飛んでいる姿に判断できない時もあるくらい。
 しばらく立ち続けて観察する。巣は出入り口から少しそれたところ。折しもお客の購買力を高めるかのように、音楽と店内のセールスの声が高らかに響くスピーカーに、巣作りをしているではないか。うるさくはないのだろうか、電気のぬくもりは大丈夫なのかと、気を揉む。と、さっと身を切って親鳥が来たかと思うと、雛に餌を与えて去る。一瞬の出来事。チュチュチュと鳴き交わす声。4羽の雛が黄色い嘴をあけて餌をおねだりする姿に、顔がほころぶ。他のお客も微笑みをうかべて気づいている。
 ショッピングの楽しみが増えて、足繁く私は通う。親鳥は父と母がいて、交互に餌を運ぶ。空中の虫を捕食しているようで、その身のこなし方は燕返しという。それにしても、4羽の雛たちが黄色い嘴を大きくあけて餌を待っている様子は、離乳食のはじまった赤ちゃんが口をあけて食べ物を待つ一瞬と重なり、愛おしく思われる。
 店の中の年配の店員さんに聞いてみた。
「毎年ツバメはやってくるのですか?」「そうですよ」「何年くらい前からですか?」「わたしがここに来て7年になります。その時から来ていますよ」「同じ場所に巣を作ります?」「違うところに作ります。外のトイレの入り口だったり、軒の端っこだったり…。でも、糞が落ちて臭いのでお客さんに迷惑です」と、会話が弾む。そう云えば、糞がおちているな、とあらためて見直す。
 ツバメの抱卵日数は13〜17日。その後の巣内での育雛日数は20〜24日らしい。いく日か通っているうちに、雛の1羽が巣の縁で羽ばたきしていたり、縁に必死につかまっていたりの姿も見られるようになった。
 そして、2〜3日降り続いた大雨の後、巣が空になっていた。巣立ちしたのだ。一抹の寂しさと同時に、どこでどうやって暮らしているのだろうと、喜びと不安を隠しきれない。来年もまた、来てくれますように。
  
                                梅雨の最中に   猪俣美智子

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