忘れもしません。かれこれ10年前になります。
宮崎市フェニクス自然動物園では、13時30分より、タイ国よりやってきた2頭の子象の「ゾウさんの散歩」というのがあります。これは「アジア象展示場」から「ゾウさん広場」までの道のり、約100mを象使いの人と飼育係に率いられて、象の「みどり」と「たいよう」が園内の人混みの中をかき分けながら散歩します。
その当時、少し離れてみていると、2頭の子象が前と後ろに並んで、そのしっぽと鼻先をつないで散歩しているのです。微笑ましく可愛い姿に、「かわいい!」という歓声が見物客からあがっていました。そこで私は、「象というのは、しっぽと鼻先をお互いに繋ぐ習性があるのですか?」と素朴な質問を飼育係にしました。すると、「ぼくがさせたのですよ」と、象使いの人がいたずらっぽく笑って答えてくれました。
帰宅してからも、また、月日を追うごとにあの可愛い姿が心に焼きついておりました。それに加え、2頭の子象が、合わせて8本の足を間違わずに、一歩一歩道を踏みしめて歩く時の足音が、「ドシン、ドシン」または「ドスン、ドスン」と蘇ってきて、「タイ語では何と表現するのだろう」と、翌年に動物園に行ったとき、慣れ慣れしくも、また尋ねると、通訳を通して、微妙に違うけれど、「ダン、ダン、ダン」と、唇を動かして教えてもらいました。象使いはタイ人です。
その象の「たいよう」が2014(平成26)年1月19日(日曜日)、16時37分に急死したニュースに驚きました。享年13。今日、私は保育所の親子遠足に来て、「ゾウさんの散歩」をまた見ております。
相棒を失った象「みどり」の悲しみはもとより、一段と大きくなった背中に、象使いをのせて、威風堂々と「ダン、ダン、ダン」と何事もなかったかのように、歩いている姿に、感慨無量でした。
帰るとき、動物園の門に掲げられてある「たいよう」の遺影に手を合わせました。
2014年3月8日 猪俣美智子